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(声明) 静脈内鎮静法(IVS)に関する一部商材の不適切な広告表示について

 このたび当学会は、インターネット上の一部広告において、「インプラントや矯正治療よりも術者に求められる難易度が低く、一般の歯科医師でも基礎的なトレーニングだけで静脈内鎮静法(IVS)を導入できる」「少ない設備投資で簡単に実施できる」といった趣旨の文言とともに、患者の安全よりも歯科医療機関の自費診療比率の向上や売上増加を前面に掲げた教材等が販売されている事例を確認しました。これらの広告表示は、医療倫理および医療安全の観点から極めて不適切であり、看過できるものではありません。

 歯科治療における静脈内鎮静法は、全身状態の評価、鎮静薬の投与管理、呼吸・循環の変化への対応など、高度な全身管理を要する歯科医療行為です。当学会のガイドライン、日本歯科専門医機構の専門医制度の趣旨、さらに、厚生労働省が医療安全対策・推進の中で示してきた方向性はいずれも、十分な教育・研修と適切な体制整備による安全確保を重視しています。IVSを「講義動画を一度視聴すれば導入のハードルがほとんどなくなり、誰でも簡単に導入できる収益ツール」として宣伝する行為は、国民の信頼に応える医療の在り方から逸脱し、医療過誤、医療不信を招きかねない大変危険な発想であるであると考えます。

 静脈内鎮静法は、本来、強い不安や恐怖を抱える患者さん、持病や障害により通常の歯科治療が困難な患者さんが「安心・安全に治療を受けられるようにする」ための手段であり、収益向上を主目的とした導入や宣伝は、本来あるべき医療の姿から大きく逸脱するものであり、当学会として断じて容認できるものではありません。

歯科医師の皆さまへ
 静脈内鎮静法を実施・導入される際には、当学会のガイドラインや関連ステートメント、歯科専門医制度の趣旨をご確認のうえ、十分な研修と安全管理体制を整えていただくようお願い申し上げます。「短期間で誰でもできる」「高度なトレーニング不要」といった表現には、十分な注意と批判的な視点をもって慎重にご判断ください。

患者さま・国民の皆さまへ
 IVSによる歯科治療を希望される際には、鎮静法に関する専門的なトレーニングを受けた歯科麻酔専門医または歯科麻酔認定医などが関与しているか、また、万一の際に備えた救急対応体制が整っているかを、遠慮なくご確認ください。疑問や不安があれば、納得できるまで質問していただくことをお勧めします。

 一般社団法人 日本歯科麻酔学会は、今後も日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本歯科専門医機構、厚生労働省、関係学会等と連携しつつ、ガイドライン整備や教育・研修事業を通じて、全身麻酔・静脈内鎮静法を含む歯科医療の安全性向上に努めてまいります。


2025年12月1日
一般社団法人 日本歯科麻酔学会
理事長 松浦 信幸


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